Masuk数時間後。危うくうとうとと眠りかけていた俺は、マリーさんに起こされる。危ない、まだ寝たりしたら女性側に無意識に引っ張られてしまう。人前では気を抜いたらダメだ。更に無駄な注目を集めることになる。
「ようやく報酬とランクの計算が終わりましたよ。もう、カーズさん! 前代未聞過ぎて大変だったんですからね!」
「あ、ああ、申し訳ない」
目を擦りながら答える。確かに結構時間かかったみたいだ。そろそろ日も暮れてくる。
「いいえ、これまで未達成のままになっていて困っていたクエストもあったからこっちとしては大助かりだけどね、猫獣人の手も借りたいくらい突然忙しくなったわよ。みんな総出で手伝ってくれたからこれでも早く終わった方なんだから」
無自覚だったけど、訓練とはいえそこまでの数を狩っていたとは……。必死だったしな。
「で、カウンターで渡すけど、報酬はクエストと賊の懸賞金、素材の買取など全部で850万ギール。ワイバーンの素材は後日オークションだから、それはそのときね」
マリーさんに 付いて行き、カウンターで大量の金貨を受け取る。おおー、すごいな、2日でこんな額稼げるなんて。冒険者すげー! でも、ぶっちゃけ体が資本の命懸けの自営業って感じがするなあ。怪我したら終わりだ。でもそういう一攫千金のために命を燃やす生き方ってなんかいい。スポーツ選手だってそんなもんだ。とりあえず美味い物をたくさん食べよう!
「それとランクについては、もう異例中の異例、Bランクまで一気に昇格よ。それについてはこれからギルマスから話があるわ。エリックとユズリハも一緒にね」
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ということで今はギルマスの部屋のソファーに座っている。右にエリック、左に俺の頭を撫で続けるユズリハ。目の前にはギルマスとマリーさんだ。
「とりあえず、Bランクへの昇格おめでとう、カーズくん」
「はは……、ありがとうございます。でもいいんですか? 我ながら悪いような気がします」
「まあ異例中の異例だったのう。だが、GPも十分な程貯まっておったし、試験で実力も見た。ズルしてGPを稼ぐことなどできん。上げないわけにはいかんかったのだよ。ウチとしても実力者は大歓迎だし、めでたいことなのだよ」
「はあ、ありがとうございます?」
よく分からないが良いことなのだろう。とりあえず俺はたくさん報酬が貰えるならいい、美味しいものを食べられるし。
「で、じいさん。俺達までここに呼んだのはどういう理由だ?」
「そうね、試験監督しただけだし」
そうだな、何で二人も呼ばれてるんだ? そしてユズリハは俺をいい加減解放して欲しい。
「お前達、調度良くAランクの試験資格を持ったことになってのう。だがこれはクラーチ王国のギルドのような大きなギルドでしか受けられん。Sランク試験も同じようなものでな。3人も揃ったことだしクラーチの王都で試験を受けて来いと思ってな。どうだ、受けるか?」
あ、そう言えば王都に行く用事もあったな。この際今日の事件のことをギルマスに話すべきか? 恐らくステファンの人柄なら力になってくれるはずだ。それに2人が付いてくるならあの護衛達よりは頼りになる。どうしたもんかな……。いや、正直俺一人で手に負える案件ではない、協力者は多い方がいいだろうな。
「マジかよ、そいつはいいな! 三人で受かってやろうぜ!」
「そうね、せっかくだし。カーズと王都も楽しそう!」
「王都……。ギルマスにマリーさん、少々相談したいことがあります。それと二人にも出来れば協力して欲しい。更に絶対に内密にしてもらいたい」
「ほう、何やら大変そうな様子じゃな。お主ほどの者がそう言うとは」
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「それは……、そんな危険なことがあったんですね」
マリーさんが溜息を吐く。つい先程の事件だしな。俺はアーヤ姫救出の際の出来事と帰りの道中の護衛を引き受けていること。恐らく王国内で何かしらの事件が起きていることを話した。そして宰相が怪しいことに明らかにそれと繋がっている執事を捕らえていること、出発は1週間後ということも。
「うむ、だがカーズくんの判断は英断だ。王族が依頼など出せば大騒ぎになる。それに護衛のレベルも考えるとな。ではこれを今回の極秘クエストとしておこう。決して他言してはならん。エリック、ユズリハも護衛として一緒に同行すること、もし可能なら王国の闇を暴いて来い。だが決して無理はするな。自分達の命が優先だ。恐らくSランク以上に相当する危険な任務になるかもわからん。儂は先に公務中のアーヤ王女と面会をしておこう。それに王宮には知り合いも多いのでな、色々と手回しをしておこう。試験はそのついでに済ませて来い、よいな」
ガシッとエリックが拳を合わせる。
「よっしゃ、こいつは燃えるな! やってやろうじゃねーか! 三人でAランクになろうぜ!」
「遊びじゃないのよ、バカエリック。まあカーズと一緒だし私も楽しみ!」
浮かれているが、王族全体がヤバいんだ。一人じゃあ手が回らないかも知れない。巻き込んだことになるし礼は言っておこう。
「二人とも助かる、ありがとう」
「カーズくん、大変だろうが二人のことも守ってやってくれ」
「はい、俺の前で仲間は誰一人殺させやしない」
二人とも知り合ったばかりだが気のいい奴らだ。俺の都合で死なせたりなど出来ない。こればっかりは絶対だ。それにアーヤ姫、彼女のことはなぜか心に引っ掛かる。何故かはわからないが。
ということで、後日また話し合いとなった。後は宿泊する宿屋も紹介してもらった。ありがたい。
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そして今は冒険者のみんなに奢ることになってしまい、どんちゃん騒ぎの最中だ。楽しめるときに思い切り楽しむか。いいな、今を生きてるって感じがする。
俺は寝てしまうとまずいのでほとんど飲んでいない。それに恐らく全耐性が高くなっているためかまるで酔わない。ということで、声をかけてくる冒険者や他のギルド関係者などと挨拶やらしながらテーブルで適当に食べたりして寛いでいる。一日が濃過ぎたし、多少は疲れたのかもしれない。
そうだ、エリックの武器を壊してしまったんだった。クエストにも一緒に行くし、武具創造のスキルで創ってやるか。折角のスキルだ、使えるかも試したい。冒険者仲間と飲んでいるエリックに目をやる。
「おーい、エリック!」
「なんだ、カーズ! どうした?」
のしのしと近づいて来るエリック。
「武器壊しちゃっただろ、不便だと思ってさ」
「ああー、だが仕方ないしな。また店でも探してみるぜ」
「そのことなんだが、俺は武具創造というスキルを持ってる。まだ試したことはないが、Aランクまでの武器なら創れるはずなんだ」
「マジかよ、そいつはスゲェ! じゃあ頼むぜ、お前が創るんだ、とんでもないものに決まってる」
「どうかな、やっぱり大剣がいいのか?」
うーん、まあそうだと頷くエリック。俺は自分が大剣を使わない理由を知ってもらおうと思った。
「正直言って大剣は使い勝手が悪いぞ。その大きさ故に叩き切るか薙ぎ払うしかできない。重い上に体力も使う。外したときの隙も大きいしな」
「……確かにそうだな、なら軽くて丈夫なやつを頼めるか? それならその弱点はなくなるだろ? それに愛着もあるしな」
愛着か、自分の愛剣だったんだろうし、それはそうだろうな。俺なんかよりずっと長くこの稼業をやっているんだ、俺が決めていいことじゃないな。
「なるほどな。わかった。出来る限りやってみよう。もっと他にリクエストはあるか?」
「軽くて丈夫、だが斬撃が軽いと困る。持つには軽いが、与える衝撃は強い方がいい。あのぶった斬る感触がいいんだ。あとはお前のイメージに任せるさ」
「わかった、初めてだがやってみよう」
両手に魔力を込めると、その空間に黒い
<スキル武具創造が発動します。創造する武具のイメージを固めたらそれを更に形にするイメージで空間から取り出して下さい>
なるほど、スキルが詳しく教えてくれるとはありがたい。ならイメージは大剣。軽くて壊れない。更に切りつけたときに衝撃が追加で加わるような、見た目のイメージはそうだな、細かいことはわからないが北欧神話の魔剣バルムンクだ、グラムとかノートゥングとも言うが響き的にバルムンクがいいな。今の俺にとって出来る『最強』のイメージを魔力と供に注ぎ込む!
<イメージ構築完了・魔剣バルムンク、創造開始します。魔力を硬質化するイメージで集中させながら空間から抜き取って下さい>
よし、了解だ。俺の両手が突っ込まれている黒い空間から禍々しい魔剣が出現し始める。そのイメージに魔力を固定しながら剣を引き抜く。元の大剣とほぼ同じくらいの大きさだが、刀身は黒くギラついて輝いている。剣自体に込めた魔力で、自動的に無属性の衝撃追加のおまけつきだ。
意外にも創れるものだな、片手でも軽々と振れる。今の俺に創れる『最強』のイメージが収束された、Aランク相当の大剣だ。勝手なイメージだから本当の神話の剣とは見た目が異なるだろうが、それはそれ。俺にとってのイメージだし、地球じゃないから誰も知らないしな。
だがこれはかなりの魔力を使うな。恐らくイメージに合わせてMPの消費量が変わるのかもしれない。ついでに専用の鞘も高硬度で創造した。ふぅ、と息を吐きながら鞘に納めたその剣を片手で持ち上げながらエリックに向ける。
「受け取ってくれエリック。今日の礼だ。そいつは魔剣バルムンク、神話の英雄が使っていたとされる伝説の魔剣だ」
「お、おぉ……、何だこれ?! 途轍もない魔力を感じる。しかもまるで重さを感じねえ。どんな素材なんだよ?」
受け取ったエリックが騒ぐ。わかるよ、俺がアリアのお手製をもらった時も驚いたもんな。
「俺の魔力を高濃度で圧縮して硬質化してある。オリハルコンにはさすがに負けるが、そこら辺のものなら切れないものはないと思うぞ」
「マジかよ、とんでもねえな! ありがとうよ、相棒! ちょっくら試し切りに行ってくるぜ、またあとでな!」
サッサと行ってしまった、そしていつの間にか相棒にされてしまった。喜んでくれたしいいか…って、また視線が集まってるな。そりゃあ空間からあんなデカい剣出せば目立つわ! 俺のバカ! あんなに物々しい感じになるスキルだったとは、こんな大勢の前でやるんじゃなかった。
「ははは、手品だよ、手品!」
誤魔化してみた。ゴン! 後ろからげんこつが飛んできた、痛い。やっぱユズリハか……。
「まーた何やってんのよ、カーズ?」
「いやー、エリックの武器壊しちゃっただろ。だからお詫びにと思ってさ」
「何ですってー! あいつばっかりズルい――!! 私にも杖作ってよ! あれに負けないくらいの!」
「いや、結構魔力使ったし、今日はもう無理かも、ははは……」
「じゃあこれでも飲みなさい!」
ぶちゅ――! 何だ? ユズリハにキスされてるのか? しかも何か水分を口の中に入れられた、苦しいので思わず飲んでしまった。少しだけ魔力が回復した気がする。
「ぷはっ、ちょ、ユズリハ! みんな見てるって!」
ぐいぐいと、ユズリハを押しのける。本当よく絡んで来るなあ。
「ふふーん、どう? マナポーションよ、魔力回復したでしょ? それにねー、アンタみたいなカワイイ顔してたら異性に見えないのー。こんなの同性と戯れてるようなもんよ!」
いや、同性でもキスはしないだろ? 男だったら俺吐くよ? それにそこまで言われると男としては少々悲しいなあ。見た目は仕方ないけどさ。しかしなぜそんなもんを今飲んでるんだよ?
「全然違うように思うんだけど……」
確かに回復したが、ほんの少しだ。全快には程遠い、全然足りない。さっきのでMPごっそり持って行かれた。多分まだコントロールが甘いのだろう。初めてのスキルだとはいえ、思ったより加減が難しい。
「うーん、あれくらいじゃあ全然足りないかも。意外に結構MP消費したんだよ」
「えー、じゃあ私のは? ねえねえ、ダメなの!?」
ダメだ完全に酔ってるじゃないか、胸元にギュムーと抱きすくめられて苦しい。もう何回目だよ。まあ、おっぱいはありがとう。苦しい、でもありがとう、やっぱり苦しい。
「また創ってあげるから、どうせ一緒にクエストに行くんだし。それに杖は脆いから囲まれたらアウトだし、そうなっても戦えるような武器にしてあげるからさ」
「うん、わかった、絶対よ――!!」
また来た、ヤバい、もう勘弁してくれ。酒乱は苦手なんだよ!
「おう、カーズ戻ったぜ!」
エリックか助かった。ていうかもう戻って来たのかよ。
「丁度良かった。とりあえずユズリハを何とかしてくれ!」
そんなのどうでもいいって感じでエリックが詰め寄って来る。
「何だよこの剣の性能は!!! えげつねえぞ! どうなってんだよ!?」
「え、あ? そ、そうか?」
こっちも興奮してるなー、しかもこいつ酔ったまま街の外行ったのかよ。
「大木がスパスパ切れちまう。地面に打ち下ろしたら、前方に爆発したみたいな衝撃がぶっ飛んで地面が抉れるし、何だよこの効果は!?」
あ、ダメだ。二人してグイグイくる。勘弁してくれ、周りもげらげら笑ってるし、誰も止めてくれない。そのまましばらくみんなのおもちゃにされながら、深く溜息を吐く。
とりあえず落ち着いたら、宿屋に行こう。戦闘よりよっぽど疲れたな。いい加減にアリアを起こさないとだし。あーあ、早く休みたい。宿屋に着くのはもう少し経ってからになりそうだ。
黒く重々しい空気が周囲を包む。オロスから姿を奪った恐らくは上位の魔人、その悪魔から呪いの様に埋め込まれた悪を具現化したような因子。倒れた元団長格の2人の体からその禍々しい瘴気が立ち昇る。「クカカ、マダ……終ワランゾ……」 全身をドス黒く染め、赤く目を光らせながらのそりと立ち上がるカマーセ。「ククク、我ラハ王家ヘト……復讐ヲハタス」 同様に立ち上がるコモノー。もはや人間だった面影も確固たる意識すらもない。悪意そのものが蠢いているのだ。体中から瘴気を撒き散らし、辺り一帯を黒く染め上げていく。周囲の人達はそれに飲まれて苦しみ始める。「エリック、魔力を全身に!」「おう、くっ……確かにこいつらと向き合ってるだけで吐き気がするぜ。あの二人から対処法を聞いてなけりゃヤバかったな」 二人は精神を集中させ、全身に魔力の防御膜を張り巡らせる。「クレアさん、周囲の人達を非難させて! 悪意に飲まれるわ!」「魔力が使える奴は自分の周囲に魔力を張れ! 気分が悪くなるぜ!」 二人の大声の指示を聞き、恐怖を振るい去って全力で魔力を張るクレア。そしてそのまま騎士団に指示を出す。「この二人の言った通りだ! 魔力でガードしろ! そして周囲の人々の避難に回れ! 決して近づけるな!!」「「「「「ハッ!!!」」」」」 クレアの声で我に返った騎士達は各々の魔力を発動させ、周囲の人々の避難へと駆け出した。だがクレアは二人の背中から目が離せなかった。「あの二人に何かあれば私が戦わなくてはならん。しかし何だ……あの姿は? 魔人……。彼らは最早人ですらなくなってしまったというのか……?!」 だがその責任感のみで留まろうとするクレアにユズリハが叫ぶ。「クレアさん下がって!! 近くに寄るだけでも危険よ!!」「……っ、ああ、済まない。そうさせてもらう。お二人共、ご武運を!!」 彼らがそこまで言うのだ、大人しく引き下がるしかない。自分の無力さに歯ぎしりしながら後ろへ避難するクレア。「さてこれからがメインディッシュってことだな」「食べ物に例えたくはないわね」 二人が武器を構える。「アリアさんの指示通りいくぜ!」 構えた武器に聖属性の魔力を纏わせる。訓練の成果だ。本来魔導士のユズリハは勿論のこと、エリックも魔力コントロールは鍛錬してきた。「こいつらは正気を失ってる、ゾンビと同じよ
クレアを先頭に騎士団に囲まれながら馬車を飛ばす。飛ぶが如く! 入口はクレアの御陰で苦も無く突破。今は王城へ向けて全速前進中だ。エリックにユズリハは既に御者のおっちゃんの隣で出撃準備も万端だ。俺は馬車の上から探知、鷹の目、千里眼で城下町の街道周辺を探索中だ。街の人々は何事だ?って感じでこちらを見ている。 確かに民たちに元気がない。くそっ、普通に暮らしている人達を巻き込みやがって! そして前方に騎士団が待ち構えているのを捕らえた。「来た! 予想通り騎士団だ、数は約100、鑑定したところ団長も副団長もいる! あと5分もすれば接敵だ、任せたぞ二人とも、それにクレア!」 集中し俺に出来る最大限のバフを三人にかける、アクセラレーション、パワーゲイン、ファイアフォース、ダイヤモンド・アーマー、マジック・リリースにリジェネレーション。三人の能力値が大幅にアップする。「ありがとう、カーズ!」「ああ、問題ない。死ぬなよ!」「ここは任せときな!」 騎士団が前方に迫ると二人は馬車を飛び降りる。と同時に疾風の様に騎士団の間を潜り抜け、エリックは団長のカマーセ、ユズリハは副団長コモノーの前へと駆け出し、一瞬で1対1で対峙する構図を作り出した。いいね、作戦通りだ。「何だ、こいつら!? 一瞬で目の前に」 驚きを隠せないカマーセ。「わ、わかりません、突然目の前に!」「おっと、どうせ王女暗殺未遂なんてベタな濡れ衣で捕獲しようって作戦だろ?」 ニヤリと笑うエリック。「バレバレなのよ。ウチの大将の予想通りね」 おい、大将って誰だよ?「くそっ、なぜこちらの作戦が漏れている!?」 焦るカマーセ。そらバレるっての、それくらいしかネタがねーだろ、ガバガバなんだよ!「おい、お前達! こいつらはアーヤ王ッ、むぐぐ……」 コモノーが声を出せなくなる。「どうしたコモノー?!」「く、口、が……ッ?!」「汚い口は塞がせてもらったわよ。サイレンス。余計な指示など出させない」 おお、ナイス判断、ユズリハ。「こいつ、無詠唱だと?!」 焦る一方のカマーセ。「お前らはここで終わりだ。ウチの大将の邪魔はさせねーよ」 だから大将って誰だよ。まあいい、上手く団長格の行動は
あと約半日、恐らく昼頃には王国に到着する。 俺達は馬車に揺られながら最後の作戦会議中だ。本物のオロスからの情報によると、宰相のヨーゴレ・キアラ、こいつが事を起こしているのは間違いない。しかしひっでえ名前だな、汚れキャラかよ。もうネーミングに悪意を感じる、おもろすぎるだろ。名は体を表すとはいうけどね……。おっと脱線。 どうやら王位に就きたいというような愚痴を常日頃からこぼしていたらしい。オロスはそれを宥めていたようだが、約一か月程前に魔人を名乗るものに襲われ、姿を奪われたということだ。それ以降はその魔人の手足となって動かされていた。宰相のその欲望に上手くつけ込まれたということだな。しかし権力ねえー、いやーほんっとにどうでもいいなあ。 奴らは国を乗っ取るために、急激に税を上げるなどのあからさまに強引な政策を行った。おそらく魔人の能力で人間の僅かな悪意を増長させたのだろう。国民は疲弊し王家への不満が高まっているらしい。 そういった負の感情が魔人には堪らなく美味であり、それらを集めることが魔王復活の引き金に繋がるということらしい。魔人にされていた本人が言う言葉だし、真偽は明らかだ。 そんな折にアーヤの単独の公務での中立都市訪問が重なったため、中立都市近郊の盗賊共を闇魔法で操り、国外での暗殺を謀ったということだ。そしてこの責任を中立都市に押し付け、国内に混乱を巻き起こして国民の不満感情を煽ることで反乱を起こし、配下の騎士団、その団長カマーセ・ヌーイと副団長コモノー・スーギルに王族を暗殺させ、一番末の王子ニコラス、まだ10歳にも満たないらしい、その子を国王とし、傀儡政治を行おうとのことだ。 だが、アーヤは俺が運良く救出したため、その策略が頓挫した。どっちにしろ結構お粗末な陰謀だ。古代の文明レベルだよ、俺からしたら。しかも自分は王になれねーじゃん。古代文明並みの超低レベルな策略、アホ臭い。ということで恐らく次の策謀を考えているであろうということだ。しかし今度はかませ犬に小物過ぎかよ、一発芸人かこいつら? クラーチの人の名前ってネタなのか?「プププ、クラーチの人は変わった名前が多いんですよねー」 とアリアは笑っていたが、変のレベルじゃねーよ、悪意しか感じねーよ! 出会ったら笑ってしまいそうだわ。既にエリック達はバカ受けしてるしな。しかもギグスとヘラルドに、「お前
「オロス、アーヤ王女の暗殺に失敗しただと! 一体どういうことだ!?」 激高した表情で怒鳴りつけるまだ20代後半の男。国の政務を一手に任され、若くして宰相の位まで上り詰めた天才と言われるヨーゴレ・キアラ。しかし若くしてその才能を発揮するも、それ以上の権力、王族にはなれないことが野心家の彼には我慢ならなかった。「ククク……、どうやら中立都市の方で邪魔が入ったようで。更に帰還中も中々やり手の冒険者共が護衛に就いているようですな。いやはや、ゴロツキ共には荷が重かったようですなあ」 オロスと呼ばれた男はさも愉快であるかのように笑う。その動きはどう見ても人間の動作にしては薄気味悪い。もちろん魔人が入れ代わったものだ。本物は既にカーズ達に保護されている。「おのれ、腐った王族共が……。運がいいことだな」 どれだけのことを成し得ようとも、世襲制である王家を差し置いて自らが王になるなど不可能なことだ。ただの穀潰し、王族に生まれたということで何もかもが約束されている。何の苦労もせずに王位を継ぎ、そんな奴らに頭を下げ続けなければいけない。次の王に相応しいのは自分のような人間であるという過剰に狂った自意識。そんな彼が魔人に付け込まれるのはある意味当然の末路だったのだろう。「クククッ、どの道あの小娘もここに帰ってきます。恐らく証拠の類を持ってね。如何にして切り抜けるおつもりですかな。監視につけていた私の部下も捕らえられたようで、いやいや、中々の手練れですなあ。お見事お見事」 オロスを名乗るその男はこの混乱を楽しむようにヨーゴレを煽る。「お前の案に乗ってやったというのに……、このままでは王女が帰還したら全て終わりだ。何か案はないのか?」「ではまた騎士団を使いますかな? ここのところの不況もあって国民の王家への不満は高まっておりますしなあ。まあその状況を作ったのは貴方ですがね、ククク」「騎士団をどうするつもりだ? 下級騎士を無理矢理護衛に任命させたことで内部で分裂も起きているのだぞ」「ククク、ではその不満分子共、あの女副団長には軍を率いて遠征に出てもらうことにしましょう。魔王領の調査という名目でね。国王の命もあと僅か、騎士団が分裂すれば大魔強襲の守りは手薄になる。その混乱に乗じて国民の不満を逸らすために全ての責任を王家に負わせ、抹殺すれば良いではないですか
さて、約束の日になった。俺はエリック達、それと俺の師匠兼姉設定のアリアと共に、ギルドマスターの部屋でアーヤ一行と最後の打ち合わせを終え、馬車へと向かうところだ。「カーズ、そしてアリア殿、王女とこの馬鹿共をよろしく頼むぞ」 エリックにユズリハ、酷い言われようだな。それだけ付き合いも長いんだろうしな。「「うっさい、ジジイ!」」 この二人、やっぱ息ぴったりだな(笑)「はーい、お任せあれー」 軽いアリア、平常運転だ。冒険者登録はしてないが、俺の姉で師でもあるとのことでステファンも同行することに異議はなかった。お主の師なら問題ないじゃろ、ってことだ。エリック達が強く推薦したのもあるけどね。「わかりました、やれることはやってきます」 馬車で待っていたのは護衛の2人、優男のギグスに、大柄なヘラルド。騎士の鎧に身を包んでいる。「久しぶりだな、嬢ちゃん」「息災で何よりだ」 説明が面倒くさいので、俺が男だと魔眼で認識を書き換えておいた。それでもギグスの嬢ちゃん呼びは変わらないのだが……。「ちゃんと護衛の任務は果たしたみたいだな」 俺の皮肉にも笑ってくれる、やっぱいい奴らだなこの二人。エリック達ともすぐに意気投合したようで、問題なく馬車に乗り込み、旅はスタートだ。騎士と冒険者とか、いがみ合いがありそうなテンプレ展開を予想してたが、この二人はそんな態度は取らずに楽しく対等に話している。 アーヤの側には侍女二人が付き添っているため、俺は特に話してはいない。必要があれば通信で会話はできるしな。 それよりもピクニック気分ではしゃぐ姉設定の女神が隣でとてもウザい。とにかく俺にベタベタしてきて、実にうるさい。食い物与えとこうかなあ。 そのせいでアーヤからは姉とはいえ微妙なジト目で見られている。なんだか実にいたたまれない、だが見た目は双子のようなものだし、誰も疑うことはないけどさー。静かにして欲しい。 それに結構豪華な馬車だがやっぱり揺れる、現代の車で快適な運転をしてきたせいでとてもお尻が痛い。フライで少し浮いて衝撃が来ないようにした。痔になりそうだしな。 俺は常に周囲に探知を張り巡らせて索敵しているし、馬車にもアリアが厳重に物理・魔法結界を張ってくれた。奇襲を受けてもまず確実に跳ね返される強度だ。 クラーチ王国に入るまで約3日、必ず奇襲があるということは、ハ
3日が過ぎた。俺達は約4日後の任務に備え、毎日クエストがてらに街から離れた場所で鍛錬中だ。要するに毎日アリアにしごかれてるってことだ。毎回俺は死にかけてるけどね。1日1回の致死ダメージ無効の加護があるとはいえ、アリアは稽古中は容赦ない。毎日1回死んでるのと同じだ。今日は残り日数から計算して中日になるので、休息しようということだ。 目が覚めると、アリアはいつも通り女性化した俺にしがみついている。確かにこの体の状態だと女性的で柔らかいので気持ちがいいんだろう。だが毎日抱き枕にされるのも勘弁して欲しいものだ。 同じベッドで寝ててそういう気分にならないのかって? ならないね、全く。まず俺は女性に対してあまり良い思い出がない、だから基本的に関心がない。そしてこの寝相の悪い女神は確かに美人だが、俺と似たような外見だ、更に中身もぶっ飛んでいる、手に負えない。そんな相手に劣情は抱けないだろ? 下手したら俺が襲われると思う。 まあそんなとこかな。あ、でもおっぱいは素敵だと思う。唯一女性の崇めることができる点、それがおっぱいだ、どこの世界でも世界遺産だと思う。はい、説明終わり! てことで俺にこんな厄介な因子を植え付けたこいつはギルティなんだが、恩人でもある。邪険にはできないんだよな。 因みに、まだ寝ているときのコントロールは上達しない、全くダメだ。王国までの恐らく泊りがけになる任務に臨む前に何とかしたいんだが、全くダメ。「笑えるほどにセンス0ですねー」 毎回鼻で笑うこいつにはその内何かしらのお仕置きだ。しかし参った、せめて胸が目立たない大きさならいいが、女性体になると邪魔になるくらいの巨乳になるのだ。隠しようがない。 一人部屋になるか、せめてアリアと同室ならいいが、王国までは馬車で約1週間の道のりになるらしい。馬車で寝泊まりするってことだ、非常にマズイ。もういっそバラした方がいいのか? いや、エリックは笑って済ますだろうがユズリハには絶対おもちゃにされるに決まっている。 おっぱいへの崇拝のせいでこんな変化になってしまったのだろうかね。拝むのはいいが、拝まれるのは御免だ。残りの時間練習するしかないな。 だが今日は1日オフだ。転生してこの数日ずっと鍛錬にギルド依頼と、ぶっちゃけバトルばっかりしているんだ。折角の異世界なんだし一人で街をぶらぶらと探索するのもいいだろう。







